三思一言2020.03.08

【年表】宇田淵の事績

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◆私の宇田淵研究ー史料探訪のれきし旅ー

  宇田淵は文政10年(1827)、乙訓郡神足村の儒医宇田貞蔵の末子(6番目)として生まれました。実相院の坊官を勤める由緒ある家筋で、父や叔父たちは京都の古義堂で学びます。一家はみな学問に通じるとともに、漢詩や和歌をたしなみ、西岡で指導的な立場にありました。

 淵はこのような環境のなかで多くの友たちと交わり、梁川星巌と出会って大きな思想的影響をうけたのです。

 星巌亡き後は、岩倉具視のもとに出入りするようになり、各地から集まった勤皇の志士たちと行動を共にするようになります。

 やがて戊辰戦争が終わり、故郷に帰って再び医者をしようと思っていたところ、岩倉具視から京都留守官を拝命し、続いて桂宮家令となって宮内省官吏としての後半生を歩むことになりました(『名家歴訪録』)。

 私が宇田淵に関心を持ったきっかけは、明治維新によって上地となった長岡天満宮保存の経過を、「桂宮日記」(宮内庁書陵部蔵)から追ったことでした。長岡天満宮はもちろん淵の生家の隣にあり、青春時代に友人と逍遥して、漢詩に耽ったところです。それが家令という公的立場に身を置き、細川幽斎ゆかりの長岡大明神や古今伝授の由緒ある建物を、熊本藩邸や桂宮邸に移築していく責任者となったのです(長岡大明神と「由緒ある建物」の流転)

 そればかりではありません。日記を読み進めるなかで、岩倉具視の京都皇宮保存における桂宮家令の意味を考えるようになりました。調べてみると、宮内庁宮内公文書館や京都府立京都学・歴彩館の公文書に、淵の官吏としての足跡がたくさん残されていることがわかってきたのです(岩倉具視の京都皇宮保存と宇田淵)。自筆の文書や印鑑の押されている文書にも度々出会い、閲覧室で一人感激に浸りました。

 最後に訪問したのは、京都市歴史資料館の対岳文庫旧蔵文書です。岩倉具視に関する研究資料も御案内いただき(岩倉具視と宇田淵の往復書簡)、やっと宇田淵の年表をまとめることができました。

 淵の最後の役職名は、宮内省主殿尞京都出張所長。それを飾るにふさわしい出来事が、明治28年(1895)の平安京遷都千百年紀年祭です。平安京の維持保存は、岩倉具視の京都皇宮保存の大黒柱でした。すでに維新の志士たちの多くが世を去り、紀年祭は次世代パワーで進められていきます。淵は、平安神宮に祀られる桓武天皇の御璽を京都御所から見送り、明治28年7月、静かに公務から引退しました。そして10月19日、「長岡宮城大極殿遺址」の建碑式に出席し、故郷の友との心安らぐひと時を過ごしたのではないでしょうか(「長岡宮城大極殿遺址」石碑と中山修一)

◆時代の息吹ー明治維新を生きるー

 宇田淵研究の基礎となる資料は、もちろん御子孫に伝わる古文書です。近年、淵の漢詩や和歌の刊本・草稿類がこれに加わり、これらをありがたく拝見させていただいています。

 歌集『栗廼花』は明治37年、淵の3回忌にあたり嗣子宇田豊四郎が刊行したものです。明治34年4月半ば、思い病気に罹った淵は死期を悟り、歌をまとめて友人や子孫に送るようにと遺言したのでした。辞世の歌は「死出の山わけゆくみにもわすれぬそ わか大君のめくみなりけり」。序は高崎正風、後序は谷鉄臣。いづれも淵の同志であり、また文学を通して深く結ばれた友で、その文面から淵の実直な人柄が伝わってきます(宇田淵の歌集『栗廼花』を読む)

 西岡にいた若いころ、淵が熱中していたのは漢詩です。詩作ノートや詩箋には、何度も推敲を重ねるひたむきな姿勢が残されています。長岡天満宮に遊んだ詩もたくさんあり、時には京都からの友人も案内したようです。評点者として、岩倉具視の腹心であった同志多田好問と西尾為忠の名があるのも注目されます。特に心を打つのは、憂国の中で悶々とする心情を詠んだ詩で、それだけに京都留守官から桂宮家令へと生き甲斐を見出し、勤皇の志を全うした淵の生涯を想わずにはいられません。

 明治44年(1911)、淵の没後10年にあたり刊行されたのが漢詩集『静観亭遺稿』。教養を身につけて、淵の漢詩をいつか紹介できるように研鑽を積みたいものです。

 

ー参考文献ー

・玉城玲子「地域文化の形成」『長岡京市史』本文編二 1997年

・新稲法子「宇田栗園と漢詩」『和漢比較文学』第57号 2016年

・日浅忠行「実相院門跡宇田家とその一族」『乙訓文化遺産』 2016年

2017年に開催した「乙訓宇田淵研究会」でご教示をいただいた皆さんに、記してお礼を申し述べます。

 

伊藤仁斎古義堂(京都堀川) 京の記憶アーカイブ  府庁旧1号館写真

岩倉具視幽棲旧宅 京都大学デジタルアーカイブ 尊攘堂旧蔵写真 

 

京都出張所(京都御苑閑院宮邸跡) 京の記憶アーカイブ 府庁旧1号館写真

 



「長岡宮城大極殿遺址」「(平安宮)大極殿遺址」「平安神宮」 京都府立京都学・歴彩館 京の記憶アーカイブ 府庁旧1号館写真

宇田淵の漢詩集『静観亭遺稿』(明治44年刊)、和歌集『栗廼花』(明治37年刊)、および詩稿ノート・短冊 (個人蔵)